刺繍について

刺繍について

「空を見上げて」

ある時
ラオスの北部を旅していた

土の上で昔から変わらずに生活を営んでいる
部族の集落を訪ねていた

少し離れた宿

観光客も殆どいないその土地で
夜空に瞬く無数の星々に
その場所に在る自分を感じていた

部族で頂いた使い古された布

農作業で使うために頭に巻いていた藍布に惹かれて、
無理言って譲ってもらった

開いた穴を繕うため
その古びた布に針を入れるのが
宿で時間を過ごす日課になっていた

ある日
いつものように繕いをしていた
月明かりの下

空を見上げると星が瞬いていた

そして手の中にある繕布に
同じように星が瞬くのを感じた

自分と頭上の星が糸で繋がっているような
不思議な感覚の時間

旅をしながら針を進めることが
自分自身と頭上の星の繋がりを感じるひと時となっていた

旅から帰ってきて
妻と二人「野原」として活動をはじめて
生と死を営む土地に根を下ろす中で

刺繍をする時間は
あの時旅で感じたことを思い出させてくれる

儚い一生の中で成る形にしていきたい